朝霧山荘グランドフィナーレ

第一幕:なごり雪
2月下旬。東京近郊の墓地。理沙が花束を持って墓石の前にいる。 朝方から降り続いた雪があたり一面を覆っている。 理沙のオレンジ色のコートにも白い雪が降り積もる。 それでも彼女は払おうとしない。一人墓石に語りかけている。

「山田さん。毎日おしかけてごめんなさい。 迷惑かも知れないけど、もう少し我慢をしてください。 だって少しもお話をしないうちに、あなたは遠くへ行ってしまったんだもの
わたし‥山田さんが先輩を殺しただなんて一度だって思いませんでした。 あなたが優しい人だってことは最初からわかってました。 それなのに黒井さんや偽オーナーがあなたを疑った時、 心では『ちがう、ちがう』って思いながら、何一つ弁護してあげられなかった
本当はね、山田さん‥‥」

そう言いかけた時、墓地の坂を上ってくる男の姿が見えた。
「黒井さん?」
「やあ、理沙ちゃんも来てたのか」
黒井も理沙の姿に驚いたようだ。事件以来の再会である。

「私も山田君に詫びようと思ってね。自分のウカツさがまったく嫌になる。 警察には辞表を出したよ。前から思っていたことだが今回の事でつくづく思い知った。私は刑事に向いていないよ、アハハ」
「それでこれからどうされるのですか?」
「まだ決めてない。できれば小さな本屋か喫茶店でも始めようかと思っているんだが」
「それなら!」
理沙は父親が黒井にとても感謝していて、一度会いたいと言っていると伝えた。
形の上では理沙を守ったことになっているから父親としては当然かも知れない
「ぜひお礼をしたいと言っていましたし、父なら黒井さんのお役に立てるかも知れません」
「うーむ。じゃ一度お目にかかってみようかなあ‥別に礼なんていらないけどね、ハハハ‥(実はとても期待している)」
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第二幕:桜吹雪
4月初旬。東京。表参道の桜並木。たくさんのカップルが歩いている。
その中に橘と真綾の姿がある。真綾はとても緊張している面持ち。どうやら初めてのデートらしい。 その二人を遠くから見つめている人影がある。物陰に隠れていかにも怪しい。
通行人は怪訝な顔で見つめているが 本人は二人を見つめるのに必死で気づいていないようだ。 橘と真綾は1時間ほど前に大学前で待ち合わせ、つい先ほどまで楽しそうに喫茶店で話してた。めっちゃムカツク

「真綾ちゃん、楽しかったよ。今日は付き合ってくれて本当にありがとう」
「あっ、いえ‥私こそ楽しかったです。ありがとうございました!」
「真綾ちゃんは素直で可愛いな。そんなところは兄さんとそっくりだね」
「あ‥‥それは喜んでいいのかナ‥お兄ちゃんは人が良すぎるって‥‥友達からは天然だって言われてるし」
「アハハ、もちろん喜んでいいんだよ。人を疑らないでも生きて行けるのは幸せなことだ。 君たち兄妹を見ていると本当にそう思う。自分の醜さが嫌になるほどだ」
「三神さんが醜いだなんて!そんなことは絶対にありません!だって三神さんは私たちの‥‥私の‥ナイトだから‥」
(そう言って真綾は顔を赤らめた)
「ありがとう真綾ちゃん。でもナイトはそろそろ国に帰らなきゃいけない。真綾ちゃんとも今日でお別れなんだ」
「え!?‥‥」
「喫茶店でも話したように僕は東大で数学を教えているが4月からは英国に招聘されてOxfordで研究生活に入る予定だ。 人類最後の難問と言われる<アルベルト定理>を僕の手で解き明かしたいと考えている。ずっと前からの夢だったんだ。
最低でも3年は帰らない。解明するまでは研究室に籠って外に出ることもしない。だからキミとももう会えない。日本での最後のひと時に君のような素敵な女の子と会えたことは、僕の生涯の思い出になるだろう」
橘(偽名)はそう言うと真綾に手を差し伸べた。握手をしようということらしい

真綾はあまりのことに呆然としている。 橘は身動きできないでいる真綾を優しく抱きしめて、「じゃあ、元気で」と言って立ち去ってゆく。 ただ見送ることしかできない真綾。涙が止めどもなく溢れだす。やがてしゃがみこんで両手で顔を覆う。桜吹雪が彼女を包む

橘は振り向きたい衝動を抑えながら一人つぶやく
「あの九条という警視は確かにヤバイ。しばらく身を潜めるしかないだろう。 真綾ちゃんは惜しいが俺にはちょっと幼すぎる。遠くから俺を睨み付けているアニキも哀れだしな‥ふっ」

「くそぅ! あの悪党めッ!」
泣きじゃくる妹の姿にいたたまれなくなった祐樹が飛び出そうする
と、そのとき、
「高嶋さん?」
と聞き覚えのある声がした。

「どうしたんですか?こんなところで?」
「り、理沙ちゃん!?」
理沙は新宿に用があってたまたま通りかかったらしい
祐樹は妹と同年代の理沙なら相談に乗ってもらえると思い事情を話しすことにした
正直、今の真綾にどう言って慰めたらいいのかわからない。
理沙は少し物思いにふけったような表情をしたあと、笑顔で答えた
「良いお店を知っているんです。妹さんも誘って一緒に行きませんか?」

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第三幕:木漏れ日)
東京。新宿。戸塚町 理沙に連れられた先には赤いレンガの古風な建物があった。 一階は推理小説専門の貸本屋で二階は喫茶店のようだ。 英国ヴクトリア朝時代を思わせる雰囲気の作りだが、建物自体は最近改装されている
吊り下げられた看板には「珈琲館 四つの署名」とある。 入ると店内は学生たちで結構にぎわっている。 驚いたことに黒井警部が慣れない手つきで客の応対をしていた。 3人を見て驚いた声をあげる

「高嶋‥‥じゃなくて橘くんかあ。まったくややこしい。今は手が離せないから二階で待ってくれ」
二階に上がると、ここも学生客でいっぱいだ。 片隅のテーブルに腰を落ち着けてカウンターを見ると、なんと松村氏がいるではないか! 若い女性客が多いのはどうやらそのせいらしい
松村は二人に気付くと慌ててやってきた
「いやあ、忙しくて大変ですよ。もうすぐ舞台が始まるっていうのに黒井さん無理ばっかり言うんだから」
「え?じゃあオーディション受かったのですね!」
「ああ、何もかも理沙ちゃんのおかげさ。勇気と自信をもらったからね。オーディション当日も付き合ってくれて、ボクの彼女が焼きもちをやくほどいろいろと世話をしてくれた。」
「それは言いすぎです松村さん。あんな素敵な方が私なんかに焼きもちをやくはずないじゃないですか」

コーヒーを運んできたウエイトレスが理沙に微笑みかけた。
??「そんなことないわよ、私、本当に心配だったんだから。だって理沙ちゃんってホントに可愛いんだもの」
「あーっ、絵里さんもご一緒だったんですね。今日はお仕事お休みなんですか?」
「彼と海外旅行をするつもりで休暇を取ってたの。だけど黒井警部は彼の恩人でしょう。バカなことをしたのに許してくれたのだから、これくらいの恩返しはしなくっちゃね」
「黒井さんは逮捕する気マンマンだったけどな‥‥。 だけど僕たちはいつまでも手伝ってられないし黒井さんどうするつもりなんだろう。この店は理沙ちゃんのパパがスポンサーなんだろ。黒井さんに任せて大丈夫なのかい?」
「それで松村さんと妹さんをお連れしたの。お二人にこの店を手伝ってもらえないと思って」
「え?‥‥確かに僕は会社も辞めて、今はミュージャンの修行中だから時間はたっぷりあるけど‥」
「真綾さんは早稲田って聞きました。ここなら大学にも近いし、少しくらいならバイトできますよね?」
「は、はいっ、ちょうどバイト探していたんです。ここ、すごく感じがいいしウェイトレスのバイトなら経験もあります、お兄ちゃんだって喫茶店でバイトしてたよね?」
「あ‥‥ああ、まーやが働くなら僕だって‥‥一人じゃ心配だしな‥」
「それじゃいいんですね。嬉しい!。この喫茶室には音響スシテムも入っているんですよ。 高嶋さんの音楽活動にも使っていただきたくて準備をしておきました。私も学校が長期休みに入れば手伝いに来ます」
「祐樹さん、真綾さん、どうか黒井さんを助けてあげてくださいね」
「こちらこそ宜しくお願いします!」
理沙と真綾は旧知のように仲睦まじく話している。さっきまで落ち込んでいたのが嘘のようだ
祐樹は思う。理沙は天使なのかも知れない。黒井も松村も自分も真綾も、この笑顔を絶やさない少女によって救われた。本人に自覚があるのか無いのかそれはわからない。ただひとつ言えることは、祐樹にとって新たな発見。真綾以外の異性の微笑みがこんなにも暖かく美しく感じること‥
「やだなあ、お兄ちゃん、じっとしてて」
真綾がハンカチをー取り出し祐樹の口元をそっとぬぐった。どうやら涎が出ていたらしい。 それを見て松村と絵里が笑う

朝霧山荘の三日間を共に過ごした6名の宿泊客のうち、 オタクと麻薬Gメンは非業の死を遂げ、麻薬売人は薄暗い獄中にあり、盗賊は少女の心を盗んで海外へ逃げ、 残った路上演奏家と舞台俳優だけがこの場所にいる
店内の北側、太陽の光が一条差し込むレンガの柱の上に、二枚の写真が飾られている。 一枚は白銀に映える朝霧山荘と睦まじく微笑む二人の男女。もう一枚にはスキー服姿の若い女性。 理沙がその写真に微笑みかけた時、階下から声がした

「理沙ちゃん、私にもコヒー頼むよー、それとちょっと手伝ってくれないかなー」
「はーい!」
理沙の弾けような微笑が、春の木漏れ日に輝いていた(完)
     ~~

【朝霧山荘殺人事件RPG/リプレイ記】
☆髙嶋篤哉  <リプレイ創作小説リンクあり>
☆松村滋
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